今とび魚になって〜チャットモンチーと私〜

年齢がうっすらとわかってしまうかもしれないが、チャットモンチーを知ったのはまだ大人の階段を無理やり登らされていた子供の頃のように思う。あの頃の子どもにあったのは反抗ときらめきのマリアージュだった。

あれは暑い夏の日だったと記憶している。お気に入りのピンクの半袖シャツを着て、友人が住むマンションのエントランスにたむろしていた。学校のことをだらだらと喋っていたらふいに友人がスピーカーから音楽を流した。

 

「鈴さ、この歌知ってる?」

 

それが『とび魚のバタフライ』だった。それは当時全く音楽に興味がなかった私の耳にべったりとこびりついた。脱力してしまうようなスタート、思わず身体が揺れるリズム、離陸する飛行機のように急加速して突き抜けるサビ、全てが魅力的。それは衝撃だった。

私にこの曲を勧めた親友であったはずの友人はこの数年後私をグループでハブるようになる。もう私は彼女の連絡先すら知らない。今でもこの曲を聞くとちょっと気持ちヨくて気分が悪い。あのジメジメした夏が、その後の顛末が蘇る。

時は経ち私は大人になり、チャットモンチーは解散した。諸行無常。私たちもとび魚みたいに空を飛べたらこんなことにはならなかったのかな。一面のブルーは上を見上げればそこにあったはずなのに、私を助けてはくれなかった。いくら嫌な思い出が思い浮かんでも私は今日もこの曲を聴いてしまう。そりゃあだって、助走をつけたら空も飛べそうな気がするのだ。毎日人間でいるのは疲れちゃうからね。